Webサービスや業務システムをリリースする際、脆弱性診断を実施する企業は増えています。一方、実際に診断を検討する段階では、次のような悩みを持たれることも少なくありません。
- Webアプリケーションだけを診断すれば十分なのか分からない
- APIやクラウド環境も診断対象に含めるべきか判断できない
- 診断結果を受け取ったものの、その後の改善が進まない
- 毎回同じような脆弱性が見つかってしまう
- 開発チームにセキュリティの知識が蓄積されない
脆弱性診断は、単に脆弱性を見つけるためだけのものではありません。システムの構成や扱う情報、想定される脅威に応じて必要な診断範囲を整理し、診断結果を修正や教育、継続的な脆弱性管理へつなげることが重要です。
本記事では、システム全体のリスクに応じた脆弱性診断の考え方と、診断後の改善を進めるためのポイントについて解説します。
脆弱性診断の対象はWebアプリケーションだけではない
「脆弱性診断」と聞くと、Webアプリケーションの画面や入力フォームに対する診断をイメージする方が多いかもしれませんが、現在のシステムは、Webアプリケーションだけで完結しているとは限りません。
例えば、一般的なWebサービスでも、次のような複数の要素で構成されています。
- 利用者が操作するWebアプリケーション
- フロントエンドとバックエンドを接続するWeb API
- システムが稼働するクラウド環境
- OSやミドルウェアなどのプラットフォーム
- スマートフォンアプリ
- 外部サービスとの連携機能
- ソースコードやOSSなどのコンポーネント
- デプロイやデータ管理などの運用プロセス
Webアプリケーションに問題がなくても、クラウドの公開設定やアクセス権限、APIの認証・認可、サーバの設定などに不備があれば、情報漏えいや不正アクセスにつながる可能性があります。そのため、脆弱性診断を検討する際は、特定の診断メニューだけを見るのではなく、まずシステム全体の構成を整理する必要があります。
システムのリスクに応じて診断範囲を決める
診断範囲を検討する際は、例えば次のような観点を整理します。
- どのような情報を扱っているか(個人情報、決済情報等)
- 誰が利用するシステムか(社内利用のみか、不特定多数が利用するものか)
- どのような構成か、外部連携しているか
大切なのは、診断メニューを先に決めるのではなく、そのシステムはどんな目的で、何を扱っているのかを可視化することです。その上で、攻撃者にどこを攻撃されると一番被害が大きいのか、どこが一番攻撃されそうなのかを考えて、攻撃されたなくない部分の診断を考えることです。
複数領域を組み合わせた診断が必要なケース
ここからは、システムの構成に応じて、複数の診断を組み合わせる代表的なケースを紹介します。
新しいWebサービスをリリースする場合
新規Webサービスでは、Webアプリケーションだけでなく、Web APIやクラウド環境を利用しているケースも多くあります。このような場合は、システムの構成に応じて、次の診断を組み合わせることが考えられます。
- Webアプリケーション脆弱性診断
- Web API脆弱性診断
- クラウドセキュリティ設定診断
Webアプリケーションの入力処理に加えて、APIの認証・認可やクラウド環境の公開設定なども確認することで、システム全体のリスクを把握しやすくなります。
AI機能を組み込んだシステムの場合
生成AIや大規模言語モデルを組み込んだシステムでは、従来のWebアプリケーションに関する脆弱性に加えて、AI機能特有のリスクも考える必要があります。
例えば、プロンプトインジェクションや、AIが参照する情報への不適切なアクセス、意図しない情報の出力など、AI機能の構成や利用方法に応じたリスクを考慮する必要があります。そのため、システムの構成によっては、Webアプリケーション脆弱性診断とAIシステムのセキュリティ診断を組み合わせるなど、従来のWebアプリケーションとは異なる観点も含めて確認することが重要です。
クラウド上で業務システムを運用している場合
クラウド上で稼働する業務システムでは、アプリケーションだけでなく、サーバやクラウド環境の設定にも注意が必要です。
例えば、サーバのOSやミドルウェアに脆弱性が残っていたり、不要なポートやサービスが公開されていたりすると、不正アクセスにつながる可能性があります。このようなリスクを確認する場合は、プラットフォーム脆弱性診断が選択肢になります。
一方、クラウド環境では、アカウントやアクセス権限、ネットワーク、ストレージなどの設定不備によって、本来公開すべきでない情報が外部から閲覧できる状態になることもあります。このようなクラウドリソースの設定状況を確認する場合は、クラウドセキュリティ設定診断が有効です。
システムの構成によっては、Webアプリケーション脆弱性診断に加えて、プラットフォーム脆弱性診断やクラウドセキュリティ設定診断を組み合わせることで、アプリケーションからインフラ環境まで、より広い範囲のリスクを確認できます。
脆弱性診断は実施して終わりではない
脆弱性診断では、発見した脆弱性や問題点を報告書としてまとめます。しかし、報告書を受け取っただけでは、システムのセキュリティが改善されたとはいえません。
診断後は、指摘内容を確認し、リスクに応じて修正の優先順位を決めたうえで、システムの改修や修正後の確認を進める必要があります。さらに、同じような脆弱性を繰り返さないためには、個別の修正だけでなく、開発や運用の仕組みに診断結果を反映することが重要です。
例えば、入力値の処理に関する脆弱性が見つかった場合、指摘された箇所だけを修正しても、別の機能で同様の問題が発生する可能性があります。脆弱性が生じた原因を確認し、開発ルールやレビュー項目、テスト方法、教育内容などを見直すことで、組織的な再発防止につなげられます。
診断結果を改善につなげる4つの方法
1.リスクに応じて修正の優先順位を決める
診断結果には、早急な対応が必要な脆弱性から、中長期的な改善が望まれる指摘まで、さまざまな内容が含まれます。
すべての指摘に同時に対応することが難しい場合は、脆弱性が悪用される可能性や、悪用された場合の影響、対象となるシステムや情報の重要性などを踏まえて、修正の優先順位を決めます。
例えば、外部から容易に悪用でき、個人情報や機密情報の漏えいにつながる可能性がある脆弱性は、優先的に対応する必要があります。一方、悪用のために複数の条件が必要なものや、影響が限定的なものについては、ほかの改修計画と合わせて対応することも考えられます。
脆弱性の深刻度だけで判断するのではなく、自社のシステムにおける実際の影響を踏まえて対応方針を整理することが重要です。
2.指摘内容と修正方法を開発チームで共有する
診断結果を改善につなげるためには、指摘事項について「なぜ問題なのか」「どのような攻撃につながるのか」「どのように修正すべきか」を開発チームが理解する必要があります。
診断報告書を担当者だけで確認するのではなく、必要に応じて開発者やプロジェクト責任者、運用担当者などにも共有し、対応方法やスケジュールを整理します。
また、修正を行う際は、指摘箇所だけでなく、同様の処理を行っているほかの画面や機能にも問題がないか確認することが大切です。共通部品や同じ実装方法を使用している場合、複数の箇所に同様の脆弱性が存在している可能性があります。
修正内容や判断の経緯を記録しておくことで、類似する問題が発生した際にも対応しやすくなります。
3.開発ルールや教育へ反映する
診断で見つかった問題は、特定の担当者やシステムだけの問題とは限りません。開発時のルールや確認方法が十分に整備されていないことが、脆弱性の発生につながっている場合もあります。
そのため、診断結果をもとに、次のような開発・運用の仕組みを見直します。
- セキュアコーディングルール
- 設計・実装時のチェックリスト
- コードレビューの確認項目
- テスト項目
- リリース前の確認手順
- クラウド環境の設定基準
- 脆弱性の記録・管理方法
また、脆弱性の原因や安全な実装方法を理解するためには、開発者向けのセキュリティ教育も有効です。
Webアプリケーションで発生しやすい脆弱性やOWASP Top 10、安全な認証・認可の実装、クロスサイト・スクリプティングやSQLインジェクションへの対策などを学ぶことで、開発段階から脆弱性を作り込まないための知識を身につけられます。
一般的な事例だけでなく、実際の診断結果と関連づけて教育を行うと、自社のシステムでも起こり得る問題として理解しやすくなります。
4.継続的に診断と改善を繰り返す
一度診断を実施して脆弱性を修正しても、その後も安全な状態が維持されるとは限りません。
機能追加やシステム改修、クラウド環境の設定変更、利用するOSSやミドルウェアの更新などによって、新たな脆弱性や設定不備が生じる可能性があります。また、新しい攻撃手法や脆弱性が公表されることもあります。
そのため、システムの更新状況や重要度に応じて、次のような取り組みを継続することが重要です。
- 新規リリース前の脆弱性診断
- 大規模な機能追加や改修後の診断
- 改修箇所を対象とした部分的な診断
- 定期的な脆弱性診断
- OSSやミドルウェアの脆弱性情報の確認
- クラウド環境の設定状況の見直し
- 過去の診断結果と対応状況の管理
診断、修正、ルールへの反映、教育、再確認という流れを繰り返すことで、単発の対策ではなく、継続的にセキュリティを改善する仕組みを整えられます。
Proactive Defenseでは各種診断と開発者向けトレーニングを提供しています
システムによって必要な診断範囲は異なります。そのため、「Webアプリケーションだけを診断すればよいのか」「APIやクラウド環境も確認すべきか」など、診断メニューの選択に迷うこともあるでしょう。
Proactive Defenseでは、Webアプリケーション、Web API、プラットフォーム、クラウド環境、AIシステムなど、システムの構成に応じた各種セキュリティ診断を提供しています。システムの概要や構成、利用環境、ご要望などを伺ったうえで、確認すべき対象や診断内容をご提案します。
また、開発者のセキュリティ知識やスキルの向上に取り組みたい企業向けに、セキュアなWebアプリケーション開発について学ぶ「セキュア開発トレーニング」や、基本的な脆弱性診断の知識と技術を学ぶ「脆弱性診断トレーニング」も提供しています。
「どの診断を選べばよいか分からない」「診断結果を開発ルールや教育に活かしたい」といった段階からでもご相談いただけます。
まとめ
脆弱性診断を効果的に実施するためには、特定の診断メニューを先に選ぶのではなく、システムの構成や扱う情報、利用者、想定される脅威を踏まえて、確認すべき範囲を整理することが重要です。
また、診断で見つかった脆弱性を個別に修正するだけでなく、原因を分析し、開発ルールやレビュー、教育へ反映することで、同じ問題の再発を防ぎやすくなります。システムの変更や新たな脆弱性にも対応できるよう、診断と改善を継続的に繰り返すことも必要です。
脆弱性診断を、問題を見つけるための一時的な取り組みではなく、より安全なシステムを開発・運用するための改善につなげていきましょう。
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